Intel第10世代デスクトップCPUは従来と同様、基本的には現状Core i9-10900K / Core i7-10700K / Core i5-10600Kの3種類とZ490チップセットマザーボードを組み合わせたときのみ、オーバークロックをすることが可能になっています。
ただしIntel第10世代では、H470やB460、H410マザーボードにおいて「K無し」のCPUでも電力制限を解除することによって高クロックを維持してパフォーマンスを底上げする独自のテクノロジーを各社が提供し始めています。
「K無し」CPU向けに独自のブースト機能を各マザボメーカーが提供
Intelは事前に電力制限とブースト可能時間を設定している
基本的には、Intelは電力制限のベースライン(PL1やPL2)をマザーボードメーカーに提供し、それにのっとって各マザーボードメーカーがボードを製造します。
電力制限は一般的に「PL1」と「PL2」という2ステージがあり、IntelはPL1でのTDPをそのCPUのTDPと公称していますが、PL2は(いわゆる最大ブースト状態での消費電力)Intel公式の製品仕様ページでは言及されていません。
また、CPUがPL2を維持できる時間は「Tau」や「Turbo Time」と呼ばれ、Intelがあらかじめ設定しています。
電力制限とTauを任意に操作してCPU性能を底上げ
ただし、マザーボードの電力供給能力に余裕がある場合は、その電力制限を引き上げてCPUに電力を供給することができるようになっています。
Tau値(単位は秒)はCPUがターボ状態=PL2を維持できる制限時間なのですが、電力制限引き上げと同様に、マザーボード側でTauを変更し、任意の値に設定することができるようになっています。
オーバークロックではないのですが、電力制限とTauを操作することによって高クロックを維持できるようにし、CPUの性能を底上げできるようになる機能をマザーボードメーカー各社がIntel第10世代デスクトップCPU向けにリリースしています。
電力制限やTauを引き上げるともちろん消費電力は増加しますが、かなり魅力的な機能なのではないでしょうか。
ASUS・ASRock・MSIが独自のブースト機能をリリース
当初、ASRockの「BFB」(Base Frequency Boost)を皮切りにこのような機能が出始めましたが、現在ではMSIやASUSもH470/B460/H410マザーボードをメインに同様の機能を提供し始めています。
その中でもMSIは最高のブースト機能をリリースしており、B460マザーボードでは最大255Wまで電力リミットを引き上げられ、Tauは無限に設定できます。
(MSIも他社みたいに名前つけてくれたら呼びやすいのに。)
ASUSは最大210Wの電力制限を備える「APE」(ASUS Performance Enhancement)を、H470やB460マザーボードで提供しています。
初めに話題になったASRockは結果的に一番大人しく、BFBは最大125Wへの電力制限引き上げに留まっています。
ASRockの「BFB」は最大125Wまで電力リミットを引き上げ
ASRockのBFBテクノロジーは常時最大125Wまでの電力リミットを引き上げになっています。
以下の表のとおり、BFBによって常時125Wまで電力リミットを引き上げると、CPUのパフォーマンスが大きく向上することが分かります。
CPU | ベース クロック PL1 65W | 全コア ブースト PL2 125W | BFB 電力制限 引き上げ | BFB 維持 クロック | Cinebench R20 PL2→PL1 | Cinebench R20 125W BFB | BFB 性能 向上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
Core i9 -10900 | 2.8GHz | 4.5GHz | 125W | 3.7GHz | 4282 | 5527 | 29.0% |
Core i7 -10700 | 2.9GHz | 4.6GHz | 125W | 3.9GHz | 3776 | 4605 | 21.9% |
Core i5 -10600 | 3.3GHz | 4.4GHz | 125W | 4.1GHz | 3161 | 3469 | 9.7% |
Core i5 -10500 | 3.1GHz | 4.5GHz | 125W | 4.2GHz | 3152 | 3303 | 4.7% |
Z490、H470、B460などのマザーボードのほぼ全てのラインナップがこの機能をサポートしており、BFBが利用できるBIOSは現時点ですでに配布されています。
ダウンロードは公式サイトからどうぞ。
ASUSの「APE」は最大210Wまで電力リミットを引き上げ
ASUSでは、「ASUS ROG STRIX B460-F GAMING」のみが常時最大210WのAPE機能を提供しており、それ以外のマザーボード(以下のリスト内)では125Wまでとなっています。
以下にリストされている各マザーボードのサイトページから、順次APE利用可能なBIOSをダウンロードできるようにしていく模様です。
- ASUS ROG STRIX B460-F Gaming (210W APE)
- ASUS ROG STRIX B460-H Gaming (125W APE)
- ASUS ROG STRIX B460-G Gaming (125W APE)
- ASUS ROG STRIX B460-I Gaming (125W APE)
- ASUS ROG STRIX H470-I Gaming (125W APE)
- ASUS TUF Gaming B460-PRO (Wi-Fi) (125W APE)
- ASUS TUF Gaming B460-PLUS (125W APE)
- ASUS TUF Gaming B460M-PLUS (125W APE)
- ASUS TUF Gaming B460M-PLUS (Wi-Fi) (125W APE)
- ASUS TUF Gaming H470-PRO (Wi-Fi) (125W APE)
- ASUS TUF Gaming H470-PRO (125W APE)
APEによるCinebench R20でのパフォーマンス向上は、デフォルトの状態と比較して10コアのCore i9-10900で約21%、8コアのCore i7-10700で約25%、6コアのCore i5-10600で約8.4%となっています。
表内での性能向上の割合がASRockのBFBより低いように見えますが、Cinebench R20のベンチマークスコアはASUSのAPEの方がASRockのBFBよりも上回っているため、こちらの方が高性能と言ってもよいでしょう。
Core i5-10600がASRockの125W BFBとスコアがほぼ同じなのを鑑みると、6コアでは125Wで十分ブーストを維持できるということが推測できます。
CPU | ベース クロック PL1 65W | 全コア ブースト PL2 125W | APE 電力制限 引き上げ | APE有効 全コア クロック | Cinebench R20 PL2→PL1 | Cinebench R20 210W APE | APE 性能向上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
Core i9 -10900 | 2.8GHz | 4.5GHz | 210W | 4.4GHz | 4891 | 5932 | 21% |
Core i7 -10700 | 2.9GHz | 4.6GHz | 210W | 4.5GHz | 3831 | 4789 | 25% |
Core i5 -10600 | 3.3GHz | 4.4GHz | 210W | 4.4GHz | 3197 | 3466 | 8.4% |
MSIは最大255Wまで電力リミットを引き上げ
MSIは唯一H410にも最大255Wの電力制限解除を提供
MSIはB460とH410マザーボード向けに常時最大255Wの電力制限引き上げ機能を提供しており、唯一H410マザーボードにも電力リミット引き上げ機能をリリースしています。
MSIマザーボードでは上位グレードのB460とH410が常時255Wの電力制限を備えており、それ以外のマザーボードは短時間ブーストで180W、常時ブーストで135Wまでの電力制限解除となっています。
現状で電力リミット引き上げ機能がリリースされているMSIのマザーボードラインナップは以下の表のとおりです。
MSI マザーボード | 当初の 電力制限 | 新しい 電力リミット 長時間維持 (PL1) | 新しい 電力リミット 短時間維持 (PL2) |
---|---|---|---|
MSI MPG B460I Gaming Edge WiFi | 210W | 255W | 255W |
MSI MAG B460 Tomahawk | 210W | 255W | 255W |
MSI MAG B460M Mortar WiFi | 210W | 255W | 255W |
MSI MAG Mortar B460M | 210W | 255W | 255W |
MSI MAG B460M Bazooka | 180W | 135W | 180W |
MSI B460M-A Pro | 180W | 135W | 180W |
MSI H410I Pro WiFi | 210W | 255W | 255W |
MSI H410M-A Pro | 180W | 135W | 180W |
MSI H410M Pro | 180W | 135W | 180W |
MSIは現状ではH470マザーボード向けにはこの機能を提供する予定はなさそうとのこと。
MSIが最強?:ASUS・ASRockと維持クロック比較
MSIもASUSやASRockと同様に自社のブースト機能のパフォーマンスを測定し、他社と比較しています。
各社の中で最も高い255Wまで電力リミットを引き上げられることもあり、MSIはほぼIntel公式オールコアブーストクロックに張り付かせることに成功しています。
CPU | ベース クロック PL1 65W | 全コア ブースト PL2 125W | MSI B460/H410 PL1=255W PL2=255W | MSI B460/H410 PL1=135W PL2=180W | ASUS H470/B460 APE 210W | ASUS H470/B460 APE 125W | ASRock Z490/ H470/B460 BFB 125W |
---|---|---|---|---|---|---|---|
Core i9 -10900 | 2.8 GHz | 4.5 GHz | 4.45 GHz | 3.9 GHz | 4.4 GHz | 検証中 ASRockと同様 | 3.7 GHz |
Core i7 -10700 | 2.9 GHz | 4.6 GHz | 4.6 GHz | 4.03 GHz | 4.5 GHz | 検証中 ASRockと同様 | 3.9 GHz |
Core i5 -10600 | 3.3 GHz | 4.4 GHz | 4.4 GHz | 4.4 GHz | 4.4 GHz | 検証中 ASRockと同様 | 4.1 GHz |
各CPUのクロックは30分間のPRIME95 AVXストレステストで測定されており、電力リミット255WのMSIマザーボードではCore i9-10900が平均約4.5GHzのクロックを維持することができていますが、電力リミットが135W/180Wまでのボードでは、平均で約3.9〜4.0 GHzに収まりました。
一方でASUSやASRockの時と同様に、Core i5-10600は125Wの電力供給でほぼ十分なためMSIの電力リミット255Wマザーボードでのパフォーマンスは他社とほぼ変わりませんが、電力リミット135W/180Wマザーボードで生じていた突発的なクロック低下を防ぐことには成功しています。
(ただし、やはり6コアのCore i5-10600等で125Wを超える運用をするのは非常にワットパフォーマンスが悪くなると思います。)
K無しCPUをぶん回したいならMSIがオススメか
ASRock、ASUS、MSIの各社のブースト機能を比較してきましたが、やはり最大255Wの電力を常時供給することができるMSIのマザーボードが最もCPUのパフォーマンスを引き出せそうですね。
B460やH410マザーボードが255Wも電力を供給することができるのか、発熱は大丈夫なのかと心配になりますが、MSIのB460マザーボードは電力供給と排熱の両方を担保している模様で、その辺りも問題なさそうです。
現時点で、「K無し」の10コアCore i9-10900や8コアCore i7-10700を使ってパフォーマンスを最大限に引き出したいなら、MSIのB460マザーボードがオススメといってもよいでしょう。
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